政府は経営者の高齢化が進む中小企業や零細企業の事業承継を支援するため、相続税など納税猶予を可能とする「事業承継税制」の抜本的な見直しと拡充が検討しています。
2018年度から特例期間を10年間設け事業承継に対して集中支援を実施し、徹底的に世代交代を進めていくというものですが、その内容を改めて確認してみましょう。
中小企業の世代交代を促進するために
現在後継者難の状態である中小企業は多く、2025年には130万社という中小企業が廃業に追い込まれると予測されています。このような事態を重くみた政府は、中小企業の事業承継が円滑化できるようにと今後10年間集中対応期間として緊急対応策のパッケージを打ち出す方針です。
2018年度税制改正により、中小企業の世代交代を促す税優遇を拡大すると報じられていますが、その主な内容は次の通りです。
・雇用確保要件の緩和
現在、税制優遇を受けるには、事業を引継ぎ後5年間、平均8割の雇用の維持といった条件を満たすことが必要です。しかし従業員の高齢化や人手不足などによりこの雇用要件を満たすことができず、承継税制が活用されていない状況だと言えます。
今回の見直しで雇用確保要件も緩和されることも含まれているので、制度を活用する企業も増え事業承継により事業継続を可能とする企業が増えることが期待できます。
さらに現在の相続税猶予は承継する非上場株式のうち3分の2ですが、これが全てに対して猶予されることになり、事業を継続する限りは支払わなくても良くなります。
・全株が猶予の対象に
スムーズに経営者が代替わりし後継者に事業を引継ぐことができるように、事業承継税制で非上場株式の相続税や贈与税に対して一部猶予する制度は既に設けられています。
仮に制度を利用したとしても、相続した株式に対する税額のうち、実質猶予されるのは53%程度で事業承継に二の足を踏むケースが多々ありました。
猶予可能な株数が全株の3分の2全株に引き上げとなれば、税額の8割以上が少なくとも猶予の対象になります。
・事業継続で猶予された税負担はなくなる
世代交代した後で事業継続され一定要件を満たすことにより、猶予された税も払わなくて良いとなる方向なので、実質的な相続税と贈与税の負担のない人が増えることが期待されます。
しかしこの制度が、課税逃れ目的に悪用される危険性があるかもしれない事を考えておく必要もあると言えるでしょう。
・M&Aや資金支援などにも支援
他にも親族以外や外部企業などがM&Aで経営を引継いだ場合、登録免許税や不動産取得税を軽減すること、ITへの投資や事業転換に対する資金支援、承継後に必要となる資金を低利融資するといった枠組みも調整していく方針のようです。
事業承継を可能とする中小企業は増えるか?
高い技術力などで大手と取引を行う中小企業は少なくありませんが、経営者の高齢化にあわせて後継者不足により、廃業を選択せざるを得ない状況は経済の停滞要因となりかねないでしょう。
今回の事業承継税制の抜本的な見直しと拡充で、事業承継が円滑にできる企業が増えることが期待されます。