事業承継における株式譲渡は本当に得?

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事業承継の手法として一般的に多く活用されているのが株式譲渡です。株式譲渡によるM&Aは、会社の形態や中身を変えることなく株主(所有者)だけを移すことができます。
手続きが簡単で早く法律上は別組織として運営でき譲渡益に対する税率も低いというメリットはあります。

株式譲渡によるメリットとデメリット
買収側は売却側の企業をそのまま買うことになるので、許認可や商圏などの資産をスムーズに引継ぐことができます。
これまで育てた会社を存続させたい売却側企業にとっては、株主にも直接お金が入るため円満にリタイアできる手法です。
ただし買収側は不要な資産や簿外債務なども引継ぐこととなりますし、優良企業の買収なら連結財務諸表上ののれん償却費は税務上損金算入できないというデメリットもあることは理解しておきましょう。

譲渡が必要な株式の割合は?
株式譲渡での事業承継の場合、株式会社が安定した経営を目指すためには株主総会で決定権を持つための最低限全株式の51%の自社株式が必要です。
しかし51%の保有では重要事項の決定権はなく、役員の解任や資本額減少、事業全部譲渡、や全部譲受、合併承認といった重要事項の決定権のためには全株式の3分の2以上(67%以上)の株式が必要になります。
そのため事業承継で株式譲渡を行う場合、後継者に67%の株式を譲渡することが必要ですが中小企業の場合には100%を譲渡することが理想です。

株式譲渡に会社の承認が必要なケース
株式を譲渡する際に会社の承認が必要な株式が譲渡制限株式です。株式譲渡に対する制限が設けられている会社では、全株式の譲渡に承認が必要な場合、または一部の株式の譲渡にだけ承認が必要な場合がありますが会社の定款によって定めが異なります。
譲渡は原則、取締役会、取締役会を設置しない株式会社は株主総会で承認されますが、こちらも会社の定款によって定めが異なっています。
株式譲渡に対する制限を設けていない会社の場合、会社の承認を得ることなく株式の譲渡や売却が可能です。

株式譲渡による事業承継の手続き方法
株式譲渡を行うには株式譲渡契約を締結し、株券交付後に株主名簿に記載することで手続きできます。株券発行が行われていない会社では、株券譲渡契約を締結して株式名簿に記載するだけの場合もあるなど、比較的簡単な方法で手続きが完了します。
ただし会社の資産と経営者個人の資産が混同している場合には整理する必要がありますし、株式を譲渡する側に譲渡益課税が課税されることがあります。

株式譲渡による課税
株式の売却は時価で行われますが、上場企業なら市場価格、非公開なら時価の決定方法が困難なため税法上の適正価格を確認した上で決定することが必要です。
また、株式譲渡からの所得は課税対象で、売却価格から株式を手に入れる際の株式取得費用(資本金等)、そして手数料や名義書料などの譲渡経費を差し引いた金額が譲渡所得金額になります。
株主が個人の場合にはこの譲渡所得に20%を掛けた金額に復興特別所得税2.1%を別途課したものが所得税として課税され、株主が法人の場合には同様の算出方法で算出した譲渡益に約40%を掛けた金額の法人税が課税されます。

株式譲渡による事業承継の注意
株式譲渡による事業承継は、経営だけでなく株式の知識や法律、税務など広範な分野での知識が必要です。さらに株式における時価も変化していくので、リアルタイムの情報に対応していくことも必要になると言えるでしょう。